2022年5月14日(土)14時開演サントリーホール・ブルーローズ『レナータ・テバルディ生誕100年記念ガラ・コンサート』にご出演下さるソプラノの佐藤美枝子さんとの出会いをお話ししましょう。
1998年5月、1950年代から1970年代にかけてスカラ座で、そしてメトロポリタン歌劇場で一世を風靡したテノール、フランコ・コレッリ(1921年~2003年)の名前を冠した国際声楽コンクールが創設されると聞いて、一週間の有給休暇を取得した私は、コレッリの生地、イタリアのマルケ州の港町アンコーナへ旅立った。
アンコーナという港町は、古代ローマ時代から栄えた町で、地中海域等で海賊を討伐したローマの軍勢たちが華やかに上陸して、凱旋将軍に率いられた軍団がくぐった凱旋門も現存して、歴史遺産として残っている。5月でもかなり蒸し暑かったので、汗かきの私は着替えを多めに持参したけれど、頻繁に着替えて大変だった記憶がある。所謂シティ型ホテルのような立派なホテルは少なく。中心地にある平凡な観光ホテルに滞在した。100人以上のコンクール一次予選参加者がアンコーナにやってきていたが、宿泊したホテルで、コンクール参加者らしき話をしている人は見つからず、唯一小柄な日本人らしき女性が食堂で一人朝食を食べていたのを見つけて話しかけた。それが佐藤美枝子さんだった。アジアからは圧倒的に韓国出身の参加者が多く、彼らは観光ホテルに宿泊するよりも、民宿でグループになって自炊される方々が多かったようだった。
日本人歌手は何人か予選、準決勝を戦い抜いたが、決勝に残ったのは佐藤さんだけだった。決勝は各人2曲ずつアリアを歌うのだが、1曲は予め歌手がリスト提出した曲の中から審査員が選曲する。
佐藤さんご自身の選んだ勝負曲はドニゼッティの最高傑作と言われる『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」であり、審査員が選んだ曲はモーツァルトの『魔笛』夜の女王第一幕登場のアリアだった。決勝は一般の観客も沢山聴きに来て、曲の後の拍手喝采、ブラーヴォ、ブラーヴァも盛大だった。佐藤さんの場合、『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」が圧倒的だったが、『魔笛』の「夜の女王登場のアリア」は、佐藤さんの歌唱は完璧で格調高かったが、やや観客のウケが大人しく感じられた。会場には隣町レカナーティ出身の名テノール、ベニアミーノ・ジーリの親戚でレカナーティのジーリ博物館の館長も顔を見せていて、佐藤さんの歌唱、特に『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」の歌唱を絶賛していた。(以下続く)
